行列を利用した偏光計算 ~Jonesの手法~

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今回は偏光計算について、簡単な計算方法を紹介します。

Maxwell方程式から、電磁波は電場と磁場の振動が波のように伝わる減少であることがわかっています。
本ブログでも下記のページでその解説をしています。

一般的な光では電場の振動方向は変化していますが、この振動方向が一定、もしくは一定で変化する光を偏光と言います。

レーザー実験などをする時には、この偏光を使うことが多いです。

同時に偏光状態を操る必要も多々出てきます。

例えばレーザーの強度変調を行う時、AOM(Acousto-Optic Modulator)を使ったりしますが、このAOMへの入射光の偏光状態によって変調される強度の大きさが変わってしまいます。
そのため、入射光は偏光板等によって偏光状態を整えてから入射させます。

偏光状態を変える光学素子には、1/4波長板、半波長板、偏光板などがあったりします。
これを複数組み合わせた時の偏光状態の推移について計算を行う時には、電磁波の方程式をいちいち計算していくよりか格段に簡単な方法があります。

今回はその1つであるJonesの手法を紹介します。

目次

完全偏光と無偏光とは

世の中の光は、常に「完全偏光」と「無偏光」が混ざり合っています。

  • 完全偏光: 電場ベクトルの振動が常にある相関を保っている光
  • 無偏光: 電場ベクトルの方向が時間と共に揺らいでいる光

光の偏光度合いを示す「偏光度」が次のように定義されています。

$$ V = \frac{I_{\rm pol}}{I_{\rm pol}+I_{\rm non}} $$

ここで、\( V \) が偏光度、\( I_{\rm pol} \) が完全偏光の強度、\( I_{\rm non} \) が無偏光の強度となります。

偏光状態の変化を計算する2つの手法

調べてみると、世の中には有名な方法が2つあるようです。

Mueller法: StokesベクトルとMueller行列による方法

偏光状態を4要素の縦ベクトル(Stokesベクトル)で表現し、光学素子を4行4列の行列で表現します。

偏光状態に対して、左から光学素子の4行4列の行列(Mueller行列)を掛けていくことで、光学素子を通ったあとの偏光状態を計算できる手法です。

この手法は、完全偏光、部分偏光、無偏光いずれにも適用可能で、かつ単色光にも多色光にも適用可能という強力な手法です。

Jones法: JonesベクトルとJones行列による方法

この手法では、偏光状態を2要素の縦ベクトル(Jonesベクトル)で表現し、光学素子を2行2列の行列で表現します。

複素数を扱う必要があり、完全偏光のみを扱います。

コヒーレントな光を扱うのであれば、この手法で十分。

今回はレーザー実験で使用可能な手法であるこのJones法を紹介します。

偏光状態を表すJonesベクトル

ここではJonesベクトルを導入して、それが示す各偏光状態を紹介したいと思います。

まずは、z軸方向に伝搬する電場のx,y成分を次のように表現してみる。

$$
\begin{pmatrix}
E_x(t) \\ E_y(t)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
E_{x0}e^{i(kz-\omega t+\phi_x)} \\
E_{y0}e^{i(kz-\omega t+\phi_y)}
\end{pmatrix}
=
e^{i(kz-\omega t)}
\begin{pmatrix}
E_{x0}e^{i\phi_x} \\
E_{y0}e^{i\phi_y}
\end{pmatrix}
$$

ここで偏光に重要なのは、\( \phi_x, \phi_y \) なのです。

ということでx,y軸上の振幅情報も含めて、z軸の振動と時間変動にはあまり興味がないとすると次のように表すことができます。
(ここで「興味がない」というのは、今注目しているのは電磁波の時間変化やz軸の位置での変化ではなく、偏光状態に興味があるからです。電磁波の時間変化は電磁波の波長(振動数)に応じて簡単に計算でき、ある瞬間を切り取った時のz軸方向の変化にも興味はあまりない。)

$$
e^{i(kz-\omega t)}
\begin{pmatrix}
E_{x0}e^{i\phi_x} \\
E_{y0}e^{i\phi_y}
\end{pmatrix}
\Rightarrow
\begin{pmatrix}
E_{x0}e^{i\phi_x} \\
E_{y0}e^{i\phi_y}
\end{pmatrix}
$$

これがJonesベクトルと呼ばれるベクトルになります。

さらにこのベクトルの大きさが1になるようにして、さらにかつ第一成分を実数にしたのが、規格化Jonesベクトルです。

例えば、y軸上の位相がx軸上での位相に比べて\( \frac{\pi}{2} \) だけ早い場合には次のように表されます。

$$
e^{i(kz-\omega t)}
\begin{pmatrix}
E_{x0}e^{i\phi_x} \\
E_{y0}e^{i ( \phi_x+\frac{\pi}{2} ) }
\end{pmatrix}
\Rightarrow
\frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1 \\ i
\end{pmatrix}
$$

ベクトル内が\( 1, i \) で表せました。これがまさに円偏光を表しています。

実際、「y軸上の位相がx軸上での位相に比べて\( \frac{\pi}{2} \) だけ早い場合」の電磁波は右回りの円偏光になります。

つまりJonesベクトルとは、(光線の飛行方向の振動および時間振動の情報を取り除いた)飛行方向に対して垂直な2軸方向の電場のベクトルを表しています。

この2軸間の位相ズレも表現されるため、各種偏光状態を表すことができます。

Jonesベクトルの早見表

上記のように電磁波のx, y軸方向の電場ベクトルを簡単にしてJonesベクトルに書き換えることで、偏光状態を表せることがわかりました。

下記の表で規格化Jonesベクトルの代表例を示します。

偏光図(画面奥方向が進行方向)規格化Jonesベクトル略さない電場ベクトル
x方向直線偏光(p波)linear_x$$ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix} $$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix}E_{x0}e^{i\phi_x} \\ 0 \end{pmatrix}$$
y方向直線偏光(s波)linear_y$$ \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix} 0 \\ E_{y0}e^{i\phi_y }\end{pmatrix}$$
x軸から45°傾いた直線偏光linear_p45$$ \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix} $$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix} E_{0}e^{i\phi_x } \\ E_{0}e^{i\phi_x }\end{pmatrix}$$
x軸から-45°傾いた直線偏光linear_m45$$\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix}$$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix} E_{0}e^{i\phi_x } \\ -E_{0}e^{i\phi_x }\end{pmatrix}$$
右回り円偏光circle_r$$\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ i \end{pmatrix}$$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix}E_{0}e^{i\phi_x} \\ E_{0}e^{i ( \phi_x+\frac{\pi}{2} ) }\end{pmatrix}$$
左回り円偏光circle_l$$\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ -i \end{pmatrix}$$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix}E_{0}e^{i\phi_x} \\ E_{0}e^{i ( \phi_x-\frac{\pi}{2} ) }\end{pmatrix}$$
左回り楕円偏光(の例1)ellipse_1$$\frac{2\sqrt{5}}{5}\begin{pmatrix} 1 \\ -\frac{1}{2}i \end{pmatrix}$$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix}E_{0}e^{i\phi_x} \\ \frac{1}{2}E_{0}e^{i ( \phi_x-\frac{\pi}{2} ) }\end{pmatrix}$$
左回り楕円偏光(の例2)ellipse_2$$\frac{2\sqrt{5}}{5}\begin{pmatrix} \frac{1}{2} \\ -i \end{pmatrix}$$$$e^{i(kz-\omega t)}\begin{pmatrix} \frac{1}{2}E_{0}e^{i\phi_x} \\ E_{0}e^{i ( \phi_x-\frac{\pi}{2} ) }\end{pmatrix}$$

このようにしてみると、いかにJonesベクトルが、偏光に特化した情報のみに絞って表現されているかというのがわかりますね。

偏光素子を表すJones行列

次に偏光素子を通ったときの偏光状態の変化について考えます。

これは簡単で、それぞれの偏光素子(1/4波長板や、半波長板など)に応じた行列を入射光のJonesベクトルに、左からかければ良いのです。

例えば、x軸方向(地面に対して平行方向)から45°傾いている直線偏光の入射光があって、それが1/4波長板(進相軸がx軸に平行とする)と通った後の偏光状態を知りたい場合を考えいます。

この場合の結果的には図のように右回りの円偏光となります。

pola fig 1

これをJonesの手法で計算すると次のようになります。

$$
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\ 0 & i
\end{pmatrix}
\frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1 \\ 1
\end{pmatrix}
=
\frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1 \\ i
\end{pmatrix}
$$

これは入射光\( \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1 \\ 1\end{pmatrix} \) に1/4波長板の効果\( \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix} \) が作用して、円偏光\( \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ i \end{pmatrix} \) になったということです。

Jones行列の早見表

ここで各偏光素子のJones行列をまとめた表を示しておきます。

光学素子Jones行列
透過軸がx方向の直線偏光子$$ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} $$
透過軸がy方向の直線偏光子$$\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} $$
進相軸(高速軸)がx方向の1/4波長板$$ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix} $$
進相軸(高速軸)がy方向の1/4波長板$$ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} $$
進相軸(高速軸)がx方向から角度 \( \theta \) 傾いた1/2波長板$$\begin{pmatrix} \cos2\theta & \sin2\theta \\ \sin2\theta & -\cos2\theta \end{pmatrix}$$
ファラデー回転子(45度)(順方向)
この素子だけ光軸に対するrotation向きの置き方偏光を行っても後に説明する回転行列を作用させない。(回転対称性を持つ)
$$\begin{pmatrix} \cos\frac{\pi}{4} & -\sin\frac{\pi}{4} \\ \sin\frac{\pi}{4} & \cos\frac{\pi}{4} \end{pmatrix}$$
ファラデー回転子(45度)(逆方向)
この素子だけ光軸に対するrotation向きの置き方偏光を行っても後に説明する回転行列を作用させない。(回転対称性を持つ)
$$\begin{pmatrix} \cos\frac{\pi}{4} & \sin\frac{\pi}{4} \\ -\sin\frac{\pi}{4} & \cos\frac{\pi}{4} \end{pmatrix}$$

入射光に対して偏光素子が作用するたびに、Jonesベクトルに対して上記のJones行列を左から作用させれば、通過後の偏光を表すJonesベクトルを求めることができます。

光学素子が回転した場合

上記では「進相軸がx方向」というように、光学素子の置き方(xy平面状の回転方向の位置)が決められている。

偏光状態への影響は、その光学素子の置き方に依存しているということです。

では、上で示した置き方からある角度\( \theta \) だけ光学素子が回転して置かれた場合にはどうすれば良いのかというと、次のような行列を作用させれば良い。

元の角度から角度\( \theta \) だけ回転した光学素子のJones行列\( M(\theta) \) は、回転していないときのJones行列\( M \) から、次のような変換で求めることができます。

$$
M(\theta) = R(\theta)MR(-\theta) \\
R(\theta) = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}
$$

これを利用すれば、回転した偏光素子であってもJonesベクトルに作用させることができ、偏光計算が可能となる。

参考文献

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この記事を書いた人

天文の博士号をもつ理系パパ。
3歳の娘を子育て中。
最近はダイエットに挑戦中!

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