現在、相対論の復習をしています。そこでまずぶち当たる壁が「テンソル」です。
いろんなHPを見ると、各々テンソルの定義が異なります。
これはどうやら、数学の視点からみたテンソルなのか、物理の視点からみたテンソルなのかによって異なるようです。
さらに言えば、物理の中でも、剛体力学からみた視点で書かれているのか、相対論的な視点から書かれているのかによっても定義が異なるようです。
本記事では、数学的な定義から初めて、相対論で使用できるような定義も紹介したいと思います。
私の理解の上に説明しているので、間違いがあったらご指摘ください。
下記の「反変ベクトルと共変ベクトルを例示して簡単に説明」という記事で反変ベクトルと共変ベクトルについて例を用いて説明をしました。
テンソルとこの記事は深く関連しており、上記記事を適宜参照ください。
はじめに反変ベクトルと共変ベクトルの復習
ある空間上に定義されたベクトルは、その性質によって反変ベクトル、共変ベクトルに分類されることがあります。
もちろん、そのどちらでもないベクトルも存在します。
\( S \) 系から\( S^\prime \)系への線形直行座標変換を行った場合を考えて、そのベクトルがどのように変換されるかを見ることで、反変・共変の分類ができます。
座標ベクトルと同等な変換が行われるなら、反変ベクトルで、座標ベクトルとは逆の変換が行われるなら、共変ベクトルとなります。
座標ベクトル\( x^i \) は次のように変換されます。
$$ x^{\prime i} = \frac{\partial x^{\prime i}}{\partial x^k}x^k $$
ここで添字\( i \) は1から3までの数字で、例えば\( x^2 \) は\( y \)を表します。
また係数\( k \) は右辺(の1つの項)で2つ使われているのでこれはアインシュタインの縮約で全成分の総和をとることを意味しています。
反変ベクトルの座標変換
座標ベクトルと同じ変換で変換されるベクトルが反変ベクトルになります。
添字は右上に付けます。
$$ V^{\prime i} = \frac{\partial x^{\prime i}}{\partial x^k}V^k $$
共変ベクトルの座標変換
座標ベクトルとは逆の変換で変換されるベクトルが共変ベクトルになります。
添字は右下に付けます。
$$ U^{\prime}_i = \frac{\partial x^k}{\partial x^{\prime i}} U_k $$
以上の反変ベクトル、共変ベクトルを理解した上でテンソルの定義をみていきます。
最も緩い(広い)数学的なテンソルの定義
私が調べた中で最も緩いテンソルの定義は、テンソル積による定義でした。
上記のwikipediaを噛み砕くと次のようになるかと思います。
複数のベクトルを用意し、その”単なる掛け算”を行った結果得られる各単にベクトルに対する成分をテンソルと定義する。
用意したベクトルの数がそのテンソルの「階数」となり、各ベクトルの成分の数がそのテンソルの「次数」となります。
例: 2階3次のテンソル
次のような2つのベクトル(例えば成分がそれぞれ3つある)を用意します。
ちなみに下記では、単にベクトルの右下に添字を書いて、その成分の右上に添字を書いていますが、これはそれぞれが共変ベクトル、反変ベクトルになるからです。
$$
\boldsymbol{A}= a^1\boldsymbol{e_1} + a^2\boldsymbol{e_2} + a^3\boldsymbol{e_3} \\
\boldsymbol{B}= b^1\boldsymbol{e_1} + b^2\boldsymbol{e_2} + b^3\boldsymbol{e_3}
$$
これを単に掛け合わせた次のような積算をテンソル積と呼びます。
ここで掛け算の記号を新たに\( \otimes \) としているのは、\( \cdot \) や\( \times \)はすでに内積や外積としてよく使われている記号で、今回の掛け算はそれとは別の掛け算だからです。
$$
\boldsymbol{A}\otimes\boldsymbol{B} = (a^1\boldsymbol{e_1} + a^2\boldsymbol{e_2} + a^3\boldsymbol{e_3}) \otimes (b^1\boldsymbol{e_1} + b^2\boldsymbol{e_2} + b^3\boldsymbol{e_3}) \\
\equiv \ \ \ \ \ \ \ a^1b^1(\boldsymbol{e_1}\otimes\boldsymbol{e_1}) + a^1b^2(\boldsymbol{e_1}\otimes\boldsymbol{e_2}) + a^1b^3(\boldsymbol{e_1}\otimes\boldsymbol{e_3}) \\
\ \ \ \ \ \ + a^2b^1(\boldsymbol{e_2}\otimes\boldsymbol{e_1}) + a^2b^2(\boldsymbol{e_2}\otimes\boldsymbol{e_2}) + a^2b^3(\boldsymbol{e_2}\otimes\boldsymbol{e_3}) \\
\ \ \ \ \ \ + a^3b^1(\boldsymbol{e_3}\otimes\boldsymbol{e_1}) + a^3b^2(\boldsymbol{e_3}\otimes\boldsymbol{e_2}) + a^3b^3(\boldsymbol{e_3}\otimes\boldsymbol{e_3})
$$
内積や外積では単位ベクトルの掛け算が従うルール(例えば\( \boldsymbol{e_1}\cdot\boldsymbol{e_1}=1, \boldsymbol{e_1}\times\boldsymbol{e_2}=\boldsymbol{e_3} \) があるのだが、テンソル積ではそれは適用されません。
実はこの\( \otimes \) の定義を狭めることで、内積や外積を包含していることがわかります。
上記のテンソル積の成分(下記)をテンソルと定義しているのが、この最も緩い数学的なテンソルです。
$$
T^{ij} =
\begin{pmatrix}
a^1b^1 & a^1b^2 & a^1b^3 \\
a^2b^1 & a^2b^2 & a^2b^3 \\
a^3b^1 & a^3b^2 & a^3b^3
\end{pmatrix}
$$
この例では、2つのベクトルを用意しましたが、これが複数あっても良いです。これが「階数」になります。
複数のベクトルで作られるテンソル積の成分は、その各ベクトルに対して「次」を与えることで、得られます。
例えば4階テンソルの場合には、4つの添字がつくことになります。
$$ T^{ijkl} $$
各ベクトルに関しても、その成分を3次として上記の例を示しましたが、これは何次でも良いです。
例えば相対論では、空間の3次に時間の1次を加えた4次のベクトルを用います。
もう少し厳しい(狭い)数学的なテンソルの定義
上記のテンソルの定義では、最初に用意するベクトルの座標変換性に関しては言及がなく、なんでもよかった。
ここに制限を加えたのが、次の定義です。
座標変換を行ったとき、
$$ T^{\prime ij} = \frac{\partial x^{\prime i}}{\partial x^k}\frac{\partial x^{\prime j}}{\partial x^l}T^{kl} $$
と変換されるのを「反変テンソル」とし、
一方で、
$$ T^{\prime}_{ij} = \frac{\partial x^k}{\partial x^{\prime i}}\frac{\partial x^l}{\partial x^{\prime j}}T_{kl} $$
と変換されるのを、「共変テンソル」とする。
さらに、それが混合する次のようなケースは「混合テンソル」とする。
$$ T^{\prime i}_j = \frac{\partial x^{\prime i}}{\partial x^k}\frac{\partial x^l}{\partial x^{\prime j}}T^{k}_l $$
さらに厳しい(狭い)物理的なテンソル
物理の世界ではさらに厳しい制約を貸して「テンソル」と呼ぶことがある。
例えば、相対論では、ローレンツ変換に対して各添字が1次変換をうける量をテンソルとすることもある。(風間洋一著 培風館 相対性理論入門講義)
このケースでは、数学の領域を超えて、物理の領域で定義される事になる。
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