今回は特殊相対論で非常に重要になるローレンツ変換の必要性を確かめたいと思います。
身近な疑問から始まる相対論
上の図をどう思う?
同じボールを2人が観測していて、片方はVbと見えて、もう片方はVb-Vに見えている。
当然じゃない?
時速100km/hのボールと同じ方向に時速70km/hで走っている人から見たら、ボールは30km/hに見えるよね。
では、次の図の場合にはどうなるんだろう?
ただしオレンジの人は電流と同じ速度で走っているとする。
ビオサバールの法則ね。
この場合だと、磁場は青い人にとっては生じているけど、オレンジの人にとっては0だ!
そう、現象に矛盾が生じたね。
これはガリレオ変換の欠陥が理由で、ローレンツ変換であれば、矛盾が生じない。
今回はこのローレンツ変換の必要性を数式で見ていくよ!
概要
今回の内容を1枚の絵にしました。
物理的要請としては、どの慣性系(観測者が動いていようと、動いていまいと)も、物理方程式が同じ形をとる、ということです。(これを相対性原理という。)
今回の目標は、「ガリレオ変換じゃだめじゃん、ローレンツ変換じゃないと電磁波の方程式が成り立たないじゃん」を数式で導くことです。
ガリレオ変換の式はもちろん、ローレンツの変換の式も与えられたものとします。
今回はどうやってこの変換式を導いたかよりも、この変換式なら電磁波方程式が、どの慣性系から見ても同じ式になるということを確かめたいと思います。(パッと閃いた式だと考えれば良いかと。)
今回の流れ:
- ニュートンの運動方程式がガリレオ変換であれば、形を変えないことを確かめる。(ニュートン力学ならガリレオ変換が成り立つ=共変的である。)
- 電磁波の方程式にガリレオ変換を適用すると、形が変わってしまうことを示す。(電磁波の方程式は、ガリレオ変換に対しては共変的でない。)
- 電磁場の方程式にローレンツ変換を適用すれば、形が変わらないことを示す。(電磁波の方程式はローレンツ変換に対しては共変的である。)
物理法則式が異なる系(例えば速度\( V \)で移動する慣性系)に対して、形が変わらないことを「共変的」というらしい。
ガリレオ変換
まずはガリレオ変換とは何かを説明します。
とはいえ、これは日常生活の感覚と全く同じなので説明も何もないです。
「時速100km/hの速度で飛んでいるボールを、時速70km/hで追いかけたら、そのボールが30km/hの速度に見える」というものです。
式にすると次のようになります。(単純化するために、\( S’ \)の慣性系は、\( S \) に対して、x軸プラス向きに \( V \) の速度で等速直線運動しているとします。)
$$ x’ = x – Vt \\ y’ = y \\ z’ = z \\ t = t’ $$
イメージは下記です。
ここでいう「○○変換」とは、\( S’ \)系での位置座標( \( x’, y’, z’ \) )+時刻( \( t’ \) )を \( S \) 系の座標( \( x, y, z, t \) )で表すとどうなるか、つまり \( S’ \) で測定した位置と時間がどのように表されるかを計算する変換数式となります。
ニュートンの運動方程式をガリレオ変換
ニュートンの運動方程式をガリレオ変換して、形が変わらないことを示します。
ニュートンの運動方程式を下記のように書き表します。
$$ m\frac{d^2x}{dt^2} = F $$
この式にガリレオ変換を施して、 \( S’ \) 系での運動方程式を導きます。単に全ての変数を \( S’ \) 系の変数で書き換えれば良いだけです。
あまり深く考えずに、ガリレオ変換の式を単に代入すれば良いです。
$$ m’\frac{d^2}{dt’^2}(x’+Vt’) = F’ $$
ここで、実は暗に質量、力も \( S’ \) 系でも同じと仮定しています。
次のこの式をズバッと計算していくと、左辺第二項 \( Vt’ \) 部分は二回微分によって消えるので、次のようになります。
$$ m’\frac{d^2 x’}{dt’^2}= F’ $$
はい、これで最初の \( S \) 系での運動方程式の形に一致しましたね。
つまり、ニュートンの運動方程式を使用すれば、 \( S \) 系でも、 \( S’ \) 系でも同じ方程式となることがわかります。
電磁波の方程式へのガリレオ変換の適用
次にMaxwell方程式から導かれる電磁波の方程式(下記(一次元))にガリレオ変換を適用してみる。
$$ \left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} – \frac{\partial^2}{\partial x^2} \right)F(x,t) = 0 $$
まずは、微分を\( S’ \)系の変数にする。
$$ \frac{\partial}{\partial t} = \frac{\partial t’}{\partial t}\frac{\partial}{\partial t’} + \frac{\partial x’}{\partial t}\frac{\partial}{\partial x’} \\ \frac{\partial}{\partial x} = \frac{\partial x’}{\partial x}\frac{\partial}{\partial x’} + \frac{\partial t’}{\partial x}\frac{\partial}{\partial t’} $$
である。またガリレオ変換の式から下記の式が導ける。(単にそれぞれの式を偏微分しただけ。)
$$ \frac{\partial t’}{\partial t} = 1 \Leftarrow t’=t \\ \frac{\partial x’}{\partial t} =-V \Leftarrow x’ = x-Vt \\ \frac{\partial x’}{\partial x} = 1 \Leftarrow x’ = x-Vt \\ \frac{\partial t’}{\partial x} = 0 \Leftarrow t’ = t $$
上記から次のように微分形の変数を書き換えることができます。
$$ \frac{\partial}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial t} – V\frac{\partial}{\partial x’} \\ \Rightarrow \frac{\partial^2}{\partial t^2} = \frac{\partial^2}{\partial t’^2}-2V\frac{\partial^2}{\partial t’ \partial x’} + V^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} $$ $$ \frac{\partial}{\partial x} = \frac{\partial}{\partial x’} \\ \Rightarrow \frac{\partial^2}{\partial x^2} = \frac{\partial^2}{\partial x’^2} $$
これを電磁波の方程式に代入すると次のようになる。(\( c, F\)は元々の静止系(\( S \))でも、\( V \)で等速直線運動している系\( S’ \)でも同じであるとする。)
$$ \left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} – \frac{\partial^2}{\partial x^2} \right)F(x,t) = 0 \\
\left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} – \frac{\partial^2}{\partial x^2} \right)F'(x’,t’) = 0 \\
\left( \frac{1}{c^2}\left( \frac{\partial^2}{\partial t’^2}-2V\frac{\partial^2}{\partial t’ \partial x’} + V^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2}\right) – \frac{\partial^2}{\partial x’^2} \right)F'(x’,t’) = 0 \\
\left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} – \frac{\partial^2}{\partial x’^2} \right)F'(x’,t’) + \left( -\frac{2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial x’ \partial t’}+\frac{V^2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial x’^2} \right)F'(x’,t’) = 0 $$
ここの第一項部分は元々の\( S \)系での式と一致しているが、第二項が発生してしまった。
つまり電磁波の方程式が変化したということだ。これは大事。
動いていない人の物理法則と、電車に乗っている人の物理法則が変わってしまったのだ。
では、この電磁波の方程式が慣性系座標変換によって変化しないような変換、つまりガリレオ変換に変わるもっといい感じの変換がないだろうか。
それがローレンツ変換なのです。
ローレンツ変換
かなり天下り的だが、次のような変換を考える。
$$ ct’ = \gamma_V\left( ct-\beta_Vx \right) \\
x’ = \gamma_V\left( x-\beta_Vct \right) \\
y’ = y \\
z’ = z $$
ここで
$$ \beta_V \equiv \frac{V}{c}, \ \ \
\gamma_V \equiv \frac{1}{\sqrt{1-\beta_V^2}} $$
とする。
行列形式でカッコよく書き表すと次のようになります。
$$ \begin{pmatrix}
ct’ \\
x’ \\
y’ \\
z’
\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}
\gamma_V\ \ \ \ &
-\gamma_V\beta_V\ \ \ \ & 0\ \ \ \ & 0\ \ \ \ \\
-\gamma_V\beta_V\ \ \ \ & \gamma_V\ \ \ \ & 0\ \ \ \ & 0\ \ \ \ \\
0\ \ \ \ & 1\ \ \ \ & 0\ \ \ \ & 0\ \ \ \ \\
0\ \ \ \ & 0\ \ \ \ & 1\ \ \ \ & 0\ \ \ \ \
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}
ct \\
x \\
y \\
z
\end{pmatrix} $$
これがいわゆるローレンツ変換です。(今は1次元のみの動き)
これを用いて、電磁波の方程式を変換してみる。つまり、静止系(\( S \) )の方程式を、\( V \) で等速直線運動している系( \( S’ \) )から見た式に変換してみる。
電磁波の方程式へのローレンツ変換の適用
まずは、やはり微分形の変形を行い、変数を\( S \)系から\( S’ \)系へ変換する。
時間の変微分
$$ \frac{\partial}{\partial t} = \frac{\partial x’}{\partial t} \frac{\partial}{\partial x’} + \frac{\partial t’}{\partial t}\frac{\partial}{\partial t’} $$
であるが、ローレンツ変換の式から、
$$ \frac{\partial x’}{\partial t} = -\beta_V \gamma_V c \\ \frac{\partial t’}{\partial t} = \gamma_V $$
となるので、
$$ \frac{\partial}{\partial t} = -\beta_V\gamma_V c\frac{\partial}{\partial x’} + \gamma_V\frac{\partial}{\partial t’} \\
\Rightarrow \frac{\partial^2}{\partial t^2} = \beta_V^2\gamma_V^2 c^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} – 2\beta_V\gamma_V^2 c\frac{\partial}{\partial x’}\frac{\partial}{\partial t’}+\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial t’^2} $$
空間の変微分
$$ \frac{\partial}{\partial x} = \frac{\partial x’}{\partial x} \frac{\partial}{\partial x’} + \frac{\partial t’}{\partial x}\frac{\partial}{\partial t’} $$
であるが、ローレンツ変換の式から、
$$ \frac{\partial x’}{\partial x} = \gamma_V \\ \frac{\partial t’}{\partial x} = -\frac{1}{c}\gamma_V\beta_V $$
となるので、
$$ \frac{\partial}{\partial x} = \gamma_V\frac{\partial}{\partial x’} – \frac{1}{c}\gamma_V\beta_V\frac{\partial}{\partial t’} \\
\Rightarrow \frac{\partial^2}{\partial x^2} = \gamma_V^2 \frac{\partial^2}{\partial x’^2} – \frac{2}{c}\beta_V\gamma_V^2\frac{\partial}{\partial x’}\frac{\partial}{\partial t’}+\frac{\gamma_V^2\beta_V^2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} $$
電磁波の方程式への代入
上記の微分形を下記の電磁波方程式に代入する。
$$ \left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} – \frac{\partial^2}{\partial x^2} \right)F(x,t) = 0 $$
ここで先と同様に、\( c, F \)はどの慣性系でも同じとする。
代入する。
$$ \left( \frac{1}{c^2}\left( \beta_V^2\gamma_V^2 c^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} – 2\beta_V\gamma_V^2 c\frac{\partial}{\partial x’}\frac{\partial}{\partial t’}+\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial t’^2} \right) – \gamma_V^2 \frac{\partial^2}{\partial x’^2} + \frac{2}{c}\beta_V\gamma_V^2\frac{\partial}{\partial x’}\frac{\partial}{\partial t’}-\frac{\gamma_V^2\beta_V^2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} \right)F'(x’, t’) = 0 \\ \left( \beta_V^2\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} – \frac{2}{c}\beta_V\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial x’ \partial t’} + \frac{\gamma_V^2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} – \gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} + \frac{2}{c}\beta_V\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial x’ \partial t’} – \frac{\gamma_V^2\beta_V^2}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} \right)F'(x’, t’) = 0 \\ \left( -(1-\beta_V^2)\gamma_V^2\frac{\partial^2}{\partial x’^2} + \frac{\gamma_V^2}{c^2}(1-\beta_V^2)\frac{\partial^2}{\partial t’^2} \right)F'(x’, t’) = 0 \\ \left( \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t’^2} – \frac{\partial^2}{\partial x’^2} \right)F'(x’, t’) = 0 $$
結果、このように電磁波の方程式は形が変わらなかった。
つまりローレンツ変換であれば、電磁波の方程式は共変的になれる。
電磁波の方程式を信じるならガリレオ変換ではなく、ローレンツ変換の方が正しい変換法であると言えます。
実際に、どっちの変換方が正しいかは実験によって判断しなければならないが、今のところローレンツ変換の方が正しい(=相対性理論が正しいとする)実験結果が非常にたくさん出ている。
まとめ
今回は、慣性系を渡り歩くための2つの変換=ガリレオ変換とローレンツ変換を紹介しました。
ニュートン力学の中ではガリレオ変換は適用でき、変換前後で方程式の形が変わらなかった。
しかしMaxwell方程式から導かれる電磁波の方程式では、ガリレオ変換をすると方程式の形が変わってしまい、ローレンツ変換であればその形を変えずに済んだことを示しました。
Maxwell方程式が正しいとするなら、ローレンツ変換がガリレオ変換よりも正しい変換であることになります。実際現在の実験事実はこれを支持しています。
では、一方でニュートンの運動方程式をローレンツ変換するとどうなるんだろうという疑問が自然と湧きます。
実は、その答えは、「形が変わってしまう」です。
これがローレンツ変換に対して共変であるためには、運動方程式を修正する必要が出てきます。その結果得られる方程式が「相対論的運動方程式」となります。
この「相対論的運動方程式」の導出までは四次元ベクトルなどを持ちいらないといけなく、まだ先が長いのでまた今度の記事にしたいと思います。
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